9 ライン
非正規で一緒に働いていた仲間が退職することになり、最後に食事会を開いた。
そういう場では、タガが緩んで、これまでおくびにも出さなかった本音をついつい漏らしてしまうものである。
その方も例外ではなく、辞める理由はもっともらしいことを言うのだが、実際は職場における扱いが意にそぐわなかったようだ。
曰く、ラインがどうしても気になってしまうとのことだった。
正規と非正規のライン。
上司と部下のライン。
年齢性別のライン。
世の中には無数のラインがあって、歩けば何かしらのラインにぶち当たる。
それは受けて来た教育だとか、テレビ番組だとか、権力者のメッセージだとかに巧みに埋め込まれていて、個人の力ではどうすることもできないのだと、私たちはいつの間にか思いこんでしまっているものだ。
だから、そういうものだと状況を甘んじて受け入れるか、その場を去るかしかないのだと、自分も長く思ってきた。
弱い立場の側の人間がラインを意識せざるを得ないというこの構造の中で、勝ち組・負け組、マウンティング、など、壁際に追いやるような言葉が跋扈し、どうにも住みづらい世の中になった。
そうかと思うと、一方では、そんなことはどこ吹く風で、好き勝手に、社会に縛られず自由に生きている人がいる。
そういう人にとって、ラインなど初めからあってないようなものなのだろう。
そのような生き方に憧れはあるものの、自分にはできない、とこれもラインなのであった。
そういったことを承知の上で、ラインは自分自身の中にしかないのだと、今は断言できる。
自分の中に知らず作り上げたラインを取っ払うことができてはじめて、その人の本当の人生が始まるのだと思う。
2023.10.4 交野左絵